「ビルを丸ごと買って住んでいる」と聞いたら、どう思いますか?
「空きフロアは賃貸にしているんでしょ?」
・・・・・・違います。
大阪西区のHさん家族は、なんとビルを一棟丸ごと自宅にしているのです。
目次
Hさんが購入したのは、延床面積約80坪の4階建て(4F+RF)。
いわゆるオーナー会社ビルでした。
下層の事務所と、上層のオーナーの自宅が内階段で結ばれているため、構造的にフロア貸しが難しく、相場よりも割安な点も魅力だったといいます。
昭和41年築で老朽化が進んでいたため、Hさんは工事費2500万円(設計料別)をかけてリノベーション。
アパレルブランドを展開するデザイナーであるHさん夫婦は、設計を「自分たちの感性に合う」と感じた9(ナイン)代表の久田カズオさんに依頼しました。
それでは、ビルリノベの全貌に迫っていきましょう!
対面式のキッチンカウンターは、お気に入りのカフェをヒントにモルタルで造作したものです。
床のモルタルとも統一感がありますが、床は一部を手直ししただけで、既存を生かしたそう。
壁や天井も白く塗装するだけにとどめました。
「この建物が持つ歴史や経年変化は、新しくつくり出せないものばかり。人工的なアンティーク加工とは異なります」と夫。
もともとHさん夫妻は仕事場に近い大阪市内でミニビルに住むことを検討していて、念願がかなった形です。
しかし、真冬の冷え込みは想像以上だったようで、スノーブーツを履いて過ごすこともあるのだとか。
「それはそれで、このビルとの“共存”です。マンションのほうが快適でしょうけれど、暑さ寒さを感じられるほうが楽しいし、階段の上り下りもいい運動です」と妻。
もし歳をとってつらくなったときは、そのときにまた考えるといいます。
それにしても、そもそもビルに住もうと思ったのは、なぜでしょうか。
「庭が欲しいけれど、都心で一戸建ては難しいし、マンションだと自由に屋外を楽しみにくいですから」と夫。
でも、リノベ後の外観を見ても「屋外を楽しめる」ようには見えませんね。
快適に住むには採光も欠かせませんが、高い建物に挟まれてビルの中は暗くないのでしょうか。
道路側から見ると奥にまっすぐ伸びる細長いビルのよう見えますが、実は違うんです。
「狭い間口に対して奥に広いL型で、フロアを上がるごとに明るくなる雰囲気が印象的でした」と夫は初めて建物を見たときのことを振り返ります。
ルーフバルコニーなど、外部空間が3つあり「リノベーション次第で面白くなる予感がしました」ともいいます。
その予感が的中したリノベ後の様子を、1階から順に見ていきましょう。
1階は中ほどにあった階段を奥に動かすことで、道路側に広い駐車スペースを確保しました。
駐車場の奥は壁と扉で仕切り、ここからが居住スペースとなります。
居住スペースとはいえ1階は倉庫のような躯体現しで、土足のままで入ります。
ソファなどがあり落ち着く空間になっていて、音楽イベントなどにも使えそうな広さです。
写真手前に靴が見えていますが、いわゆる玄関ホールはないため、ここで靴を脱いで2階へ向かいます。
ビルのリノベーション -約20坪の2階の暮らし-
2階は1階と同様に中ほどにあった階段を移動し、フリースペースにしました。
将来はテナントを入れたり、夫妻の事務所にすることも考えていますが、今は多目的に利用。
友人とのヨガや、壁をスクリーン代わりにして映画を観るときなどに利用しているそうです。
3階は明るい南側に子ども室、北の階段室側には夫婦の寝室を配置しています。
寝室の仕切り壁はガラスにして開放感を高めると同時に、階段室を通して上階からの光が届くようになっています。
3階には他にも、モザイクタイルや間接照明などでエレガントな演出を施した洗面室を設置。
光が届きにくい奥まったスペースは大容量のウォークインクローゼットも設けています。
4階にはリビングがあり、階段を挟んでキッチン、ダイニングと続きます。
階段室の各階の踊り場の床には、このような大きなガラスをはめ込み、屋上からの光が階下へ届くように工夫しています。
ダイニングのシャンデリアは本物のカトラリーをシェードにした特注品。
手前側が冒頭の写真のようにルーフバルコニーになっていて、ダイニングは明るく開放的です。
ダイニングテーブルはモルタルでつくったもので、ルーフバルコニーとを仕切るガラスを貫いて、バルコニーへ続いているようにデザインされています。
バルコニーは木製ルーバーで囲んで周囲の視線を遮っているので、焼肉やお好み焼きを楽しむこともあるとか。
屋上の階段室は、洗濯機置き場+浴室として利用しています。
浴室は屋上へ出る扉を開けることで、ちょっとしたビューバス気分も味わえるそう。
ビルのリノベーションの魅力は他にも!
今はビル全体を住居として使用しているHさん。
しかし2階の紹介部分で触れたように、プラン自体はテナント誘致の可能性も視野に入れたものになっています。
「ゆくゆくは私たちのショップ兼事務所をこちらヘ移してきてもいいし、いずれ子どもが独立すれば、望ましい住まいの形も変わるはず。だから、今の状態が完成形というわけではありません」と妻。
仕事や生活に対する考え方、状況も絶えず変化し、ライフスタイルはどんどん変わっていきます。
そんな変化に応じて、柔軟に使い方を変えていける“懐の深さ”も、中古ビルの魅力であることをHさんは教えてくれました。
※工事費は取材時のものです
設計 9(ナイン)https://www.ninedesign.jp/
撮影 山田耕司